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民主主義と次世代AI: 信頼と合意形成の未来

  • 執筆者の写真: 渡邉 定好
    渡邉 定好
  • 6月13日
  • 読了時間: 11分

この対談は、台湾のオードリー・タン氏が提唱するプルラリティ(plurality)という概念を中心に展開されています。タン氏は、AIやデジタル技術を活用することで、社会の多様な意見を統合し、合意形成を促進する新しい形の民主主義について説明します。具体的には、「ポリス(Polis)」のようなシステムを通じて、対立する意見の中から共通の価値を見出し、社会的な分断を解消する可能性が示されています。また、ディープフェイクへの対処や、ソーシャルメディアのプロソーシャルな運用、デジタルアイデンティティのプライバシー保護など、現代社会が直面する課題に対する具体的な解決策が議論されています。最終的に、タン氏は、AIを人間の能力を拡張する「アシスティブ・インテリジェンス」として捉え、人間同士の交流や**「シビックマッスル」**の重要性を強調し、民主主義の未来に対する楽観的な見通しを語っています。


AI時代において、民主主義の課題と進化をどのように捉えるべきか?

AI時代における民主主義は、いくつかの課題を抱えつつも、技術、特にAIの活用によって進化し、より包括的で効果的なものになり得ると考えられています。

民主主義が抱える課題

現代の民主主義が抱える主な課題として、以下が挙げられます。

  • 分断と二極化: 多数決の原則がある民主主義では、51%が賛成し、49%が反対した場合でも、社会が引き裂かれ、時間が経つにつれて二極化が進み、互いに不信感を抱き、憎しみ合うようになることがあります。少数派の意見が正当であると見なされないことが問題です。

  • 不信感の増大: 二つの陣営の間で「好奇心の欠如」のような無関心が増え、これが今日の民主主義の問題とされています。

  • ソーシャルメディアの影響: 2015年頃から多くのソーシャルメディア企業が「フォローフィード」から「おすすめフィード(For You Feed)」をデフォルトにしたことで、ユーザーごとに異なる世界が形成され、共通の基盤を見つけるのが難しくなりました。この「おすすめフィード」は、ユーザーを画面に釘付けにする「寄生的なAI」であり、怒りを通じたエンゲージメント(enragement)を優先するため、極端なコンテンツが拡散しやすくなり、民主主義に大きな影響を与えています。

  • 少数の意見の反映の困難さ: 従来の投票や国民投票のような単一の投票形式では、人々の意見を「高解像度」で捉えることができず、社会が実際にはそこまで二極化していないにも関わらず、そのように認識されてしまうことがあります。また、政治家が「皆の意見を聞く」と言っても、物理的な制約から数千人の意見を一度に聞くことは困難です。

AI時代における民主主義の進化

これらの課題に対し、Audrey Tang氏は「プルラリティ(plurality)」という概念と、テクノロジー、特にAIの積極的な活用が民主主義を進化させる鍵であると述べています。

  • プルラリティ(Plurality)の導入: プルラリティは、「多様な違いがある社会において、テクノロジーがその違いを認識し、共通の価値観や共通の基盤(uncommon ground)を発見する手助けをすること」と説明されています。これにより、「 rough consensus(大まかな合意)」を形成し、合意できない人々とでも協働できる社会を築くことが可能になります。AIは、バラバラになった社会をつなぐ「ステアリングホイール」として機能します。

  • Pol.is」などのテクノロジーの活用: 台湾では、オープンソースのテクノロジー「Pol.is」を導入し、Uber問題(2015年)や同性婚問題の解決に活用しました。

    • 合意形成のアルゴリズム: 「Pol.is」では、「返信」ボタンの代わりに「同意」と「不同意」のボタンのみがあり、ユーザーは他の意見に対して投票します。投票を重ねると、ユーザーのアバターが似た意見を持つグループに移動し、異なるグループ間で共通の感情を見つけ出すことを助けます。

    • 「橋渡しとなる意見」の重視: 通常のソーシャルメディアでは極端な意見が拡散しやすいのに対し、「Pol.is」では、異なる感情を持つグループ間の距離が長いほど、その間を「橋渡しする(bridging)」意見に多くのボーナスが与えられ、それが拡散するように設計されています。これにより、異なる意見を持つ人々が互いの感情を考慮した「橋渡しとなる立場」を革新的に生み出すことができます。

    • AIによる意見の集約と可視化: 何千もの意見を人間が全て読むのは困難ですが、AIがクラスタリングや要約を行うことで、多様な意見を可視化し、共通して合意できるアイデアを一目で確認できるようになります。これにより、政策が決定される際に、そのアイデアが誰の言葉から生まれたのかを追跡し、その言葉が変化をもたらしたことを示すことで、迅速なフィードバックループを構築できます。

  • 「プロソーシャル」なソーシャルメディアへの転換: 「おすすめフィード」が個人を孤立させ、極端なコンテンツを増幅させる問題に対し、Pol.isのようなアルゴリズムは、グループダイナミクスを隠すのではなく、表示することで、社会的なつながりを再構築します。Twitter(現X.com)の「コミュニティノート」は、Pol.isのような「橋渡しアルゴリズム」の影響を受けており、両陣営から賛成されたノートが上位に表示される仕組みになっています。これにより、個別のジャーナリストや政治家といった「垂直的な信頼機関」から、ユーザー間の「水平的な信頼」へとシフトしていると認識されています。

  • デジタルアイデンティティとプライバシーの保護: デジタル時代においては、プライバシーの保護とフェイクアカウント対策が重要です。台湾では、「デジタルアイデンティティウォレット(DIW)」を導入しており、大学や雇用主、政府機関など、誰でも資格を証明できますが、証明する際に、例えば18歳以上であることを証明するために、誕生日や氏名といった個人情報を全て開示する必要はありません。これは「ミオニミティ(meonymity)」、つまり部分的・選択的な情報開示であり、個人のプライバシーを守りつつ、ロボットによるフェイクアカウントを防ぐバランスの取れたアプローチです。

  • 合意形成とスピードのバランス: 緊急時において、全ての意見を聞くことが遅すぎるとの懸念に対し、Audrey Tang氏は「同時並行的なリスニング(simultaneous listening)」の重要性を強調しています。例えば、台湾では、ディープフェイク詐欺問題に対し、20万件のSMSを無作為に送り、市民からの意見を集め、450人の市民を無作為に選んで45の小グループに分け、同時に議論させました。AIがこれらの議論から最良のアイデアを要約・整理し、わずか数ヶ月で立法化を実現しました。これは、従来の「逐次的なリスニング」ではなく、「並行的なリスニング」によって、迅速な合意形成が可能であることを示しています。

  • 民主主義を「技術」として捉える: 民主主義を固定された制度ではなく、「進化する社会技術」として捉えることが重要です。半導体が継続的にアップグレードされるように、民主主義も「参加型予算編成」「電子請願」「プレジデンシャルハッカソン」といった様々な革新を通じて改善され、より多くの「声」が「より良い選択」に繋がり、それがさらに多くの「声」を促すという好循環を生み出します。

  • 人間的交流の重要性: AIは翻訳や情報整理など「アシストする知能(assistive intelligence)」として、文化や言語の壁を越えるのに役立ちますが、人間同士の対話を代替すべきではありません。アバターやAIに議論を任せることで、人間同士の信頼関係や「市民の筋肉(civic muscle)」が失われるリスクがあるため、最終的には人間同士の物理的な交流や相互のケアが重要であると強調されています。

Audrey Tang氏は、台湾が2014年の低い信頼レベルから2020年には70%以上の承認を得るまでに変化した経験から、非常に楽観的な見方をしており、AI時代においても、民主主義がより包括的で効果的なシステムへと進化する可能性を信じています。


プルラリティという概念は、民主主義の未来をどのように形作るのか?

プルラリティという概念は、AI時代において民主主義の未来を大きく形作るものと考えられています。Audrey Tang氏は、プルラリティを「社会に存在する多くの違いをテクノロジーが認識し、共通の価値観や共通の基盤(uncommon ground)を発見する手助けをすること」と説明しています。これは、社会の分断や二極化といった現代民主主義の課題を克服し、より包括的で機能的な民主主義を築くための鍵となります。

プルラリティが民主主義の未来を形作る具体的な方法:

  1. 分断された社会の統合と「共通の基盤」の発見:

    • 従来の多数決民主主義では、51%が賛成し49%が反対した場合、社会が分断され、時間が経つにつれて両陣営が互いに不信感を抱き、憎しみ合うようになるという問題があります。

    • プルラリティは、対立する意見の背後にある共通の価値観、例えば同性婚の議論における「安定した関係を築きたい」という両者の願いなど、「共通の基盤」をテクノロジーの助けを借りて発見することを可能にします。これにより、「大まかな合意(rough consensus)」を形成し、たとえ意見が完全に一致しなくても協働できる社会を目指します。

    • AIは、この多様な意見を繋ぎ合わせる「ステアリングホイール」として機能します。

  2. テクノロジーによる「高解像度」な意見の可視化:

    • 従来の投票や国民投票では、人々の意見を「高解像度」で捉えることが難しく、社会が実際にはそこまで二極化していないにも関わらず、そのように見えてしまうことがあります。

    • Pol.is」のようなテクノロジーは、ユーザーが自分の意見を投稿し、他の意見に「同意」または「不同意」で投票することで、何千もの意見の中から共通して合意できるアイデアをAIが要約・可視化することを可能にします。これにより、政治家が物理的に数千人の意見を聞くことが困難であっても、AIの助けを借りて多様な意見を整理し、アクセスしやすい情報として提示できます。

  3. 「橋渡しアルゴリズム」によるプロソーシャルなメディアの構築:

    • 2015年以降、多くのソーシャルメディアが「おすすめフィード」をデフォルトにしたことで、ユーザーごとに異なる世界が形成され、極端なコンテンツが拡散しやすくなり、民主主義に大きな影響を与えました。これは「怒りを通じたエンゲージメント(enragement)」を優先する「寄生的なAI」の作用です。

    • Pol.isのようなシステムは、「返信」ボタンの代わりに「同意」と「不同意」ボタンのみを提供し、異なるグループ間の感情を「橋渡しする」意見にボーナスを与えて拡散させるように設計されています。これにより、極端な意見ではなく、異なる意見を持つ人々が互いの感情を考慮した「橋渡しとなる立場」を革新的に生み出すことができます。

    • Twitter(現X.com)の「コミュニティノート」も、このPol.isのような「橋渡しアルゴリズム」の影響を受けており、両陣営から賛成されたノートが上位に表示される仕組みになっています。これは、トップジャーナリストや政治家といった「垂直的な信頼機関」から、ユーザー間の「水平的な信頼」へとシフトする動きを示しています。

  4. デジタルアイデンティティとプライバシーの保護:

    • デジタル民主主義では、フェイクアカウントの問題とプライバシー保護のバランスが重要です。完全に匿名ではロボットによる意見の偽装が横行し、完全に実名制では個人がドクシングや評判の悪化を恐れて発言しにくくなります。

    • 台湾で導入されている「デジタルアイデンティティウォレット(DIW)」は、「ミオニミティ(meonymity)」という部分的・選択的な情報開示を可能にします。例えば、18歳以上であることを証明するために、誕生日や氏名といった個人情報を全て開示する必要はなく、必要最低限の情報のみを開示する「ゼロ知識証明」のような形で身元を証明できます。これにより、プライバシーを守りつつ、ロボットによるフェイクアカウントを防ぎ、自由な言論環境を確保します。

  5. 合意形成とスピードの適切なバランス:

    • 緊急時には、全ての意見を聞くことが遅すぎるとの懸念がありますが、プルラリティの概念に基づくアプローチは「同時並行的なリスニング(simultaneous listening)」を可能にします。

    • 台湾では、ディープフェイク詐欺問題に対し、20万件のSMSで市民の意見を募り、無作為に選ばれた450人の市民を45の小グループに分けて同時に議論させました。AIがこれらの議論から最良のアイデアを要約・整理することで、わずか数ヶ月で立法化を実現しました。これは、従来の「逐次的なリスニング」ではなく、「並行的なリスニング」によって迅速な合意形成が可能であることを示しています。

  6. 民主主義を「技術」として捉える:

    • Audrey Tang氏は、民主主義を固定された制度ではなく、「進化する社会技術」として捉えるべきだと提唱しています。半導体が継続的にアップグレードされるように、民主主義も「参加型予算編成」「電子請願」「プレジデンシャルハッカソン」といった様々な革新を通じて改善され、より多くの「声」が「より良い選択」に繋がり、それがさらに多くの「声」を促すという好循環を生み出します。

    • 台湾は、ブラウザ登場後に民主主義が始まったため、人々が民主主義を最初から「多くの革新」の積み重ねとして捉える傾向がある点で有利だと指摘されています。

  7. 人間的交流の重要性の再認識:

    • AIは翻訳や情報整理など「アシストする知能(assistive intelligence)」として、文化や言語の壁を越えるのに役立ちますが、人間同士の対話を代替すべきではありません。アバターやAIに議論を任せることで、人間同士の信頼関係や「市民の筋肉(civic muscle)」が失われるリスクがあるため、最終的には人間同士の物理的な交流や相互のケアが重要であると強調されています。

Audrey Tang氏は、台湾が2014年の低い信頼レベル(9%)から2020年には70%以上の承認を得るまでに変化した経験から、非常に楽観的な見方を示しており、AI時代においても、プルラリティの概念を通じて民主主義がより包括的で効果的なシステムへと進化する可能性を強く信じています。

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