【本格解説】やはり国債は国民の借金ではない/そもそも国債ってなに?/なぜ国債は返済しなくていい?/国債60年償還ルールは詭弁?
- 渡邉 定好
- 8月26日
- 読了時間: 8分
更新日:8月27日
(クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 会田卓司)【ニュースの争点】
この動画では、クレディ・アグリコル証券チーフエコノミストの会田卓司氏が、日本の財政政策における国債の「60年償還ルール」について解説しています。 会田氏は、このルールが国際的な標準からかけ離れた日本独自の慣習であり、実際には国債が償還されているように見せかけるための「お化け」のような存在であると主張しています。 特に、財務省が作成するワニの口グラフが、このお化けによって日本の財政状況を実際よりも厳しく見せかけ、国民を緊縮財政へと誘導していると指摘しています。 また、国債は単なる「将来世代へのつけ回し」ではなく、民間資産の裏付けとなるものであり、その健全性を評価するには国全体の債務構造を包括的に分析する必要があることを強調しています。 最終的に、日本が健全な財政運営を行うためには、こうした「お化け」のような誤解を払拭し、国際的な標準に合わせた財政の考え方へと転換することが重要であると結論付けています。
日本の「国債60年償還ルール」が、財政認識と実際の経済運営にどのような影響を与えているのか?
日本の「国債60年償還ルール」は、政府が発行した国債の残高を60年かけてゼロにしていくという規則です。元々は、建設国債が対象で、公共事業などの耐用年数(約50~60年)に合わせて償還する目的で作られましたが、現在では赤字国債や特例国債にも適用されています。しかし、このルールは日本の財政認識と実際の経済運営に大きな影響を与えており、その実態は「見かけ上国債を返済しているように見せる」ためのもの、いわば「お化け」だと指摘されています。
財政認識への影響
「国債60年償還ルール」が財政認識に与える影響は多岐にわたります。
「国民の借金」という誤解の強化:このルールにより、政府は毎年国債残高の1/60を「債務償還費」として計上するため、あたかも国債が将来の税収で返済されるべき「借金」であるかのような誤解が生まれています。財務省の資料でも「借金の返済には将来世代の税収等が当てられることになるため、将来世代へ負担を先送りしています」と説明されており、この誤解を助長しています。
財政の硬直化と「ワニの口」の錯覚:
日本の国家予算において「国債費」が歳出の約24%を占めるとされていますが、この国債費には金利負担(利払い費)だけでなく、毎年返済しているように見せかける「債務償還費」が含まれています。この債務償還費が計上されることで、日本の歳出構造が硬直化しているという印象を与え、「財政は大変なことになっている」という認識につながっています。
財務省の資料にも見られる「ワニの口」グラフは、税収(下顎)に対して歳出(上顎)が大きく開いていく状況を示し、日本の財政が破綻に向かっているという危機感を煽ります。しかし、このグラフは債務償還費という「お化け」を含んだ歳出で描かれているため、実際よりも財政状況が悪く見えるというミスリーディングにつながっています。
財政健全化への国民誘導:この「お化け」は、国民を緊縮財政や財政健全化の方向へ誘導するために「悪用されてきました」と指摘されています。国債を返済しなければならないという思い込みが、財政政策の選択肢を束縛し、家計を救うような政策に足枷をかけている現状があります。
「ガラパゴス」的な財政運営:アメリカをはじめとする他の先進国では、国債は永続的に借り換えられていくという前提で財政が運営されており、「国債60年償還ルール」のような硬直的な制度を持つ国はありません。日本だけがこのルールを持つことは、日本の財政運営が「ガラパゴス化」していると見なされています。
実際の経済運営への影響
「国債60年償還ルール」が実際の経済運営に与える影響も、上記の財政認識と深く結びついています。
実態は借り換え:現実には、債務償還費が計上されても、財政収支が赤字である限り、実際には国債を返済しているわけではありません。債務償還費の反対側には「借り換え債」として国債が再度発行され、それが収入として償還費に充てられているため、実際には返済されておらず、債務残高も減っていません。
積極財政の阻害:国債は将来の税収で返すものではないという「積極財政派」の考え方が正しいにもかかわらず、返済義務があるという「思い込み」が国民を助けるための積極財政の実施を妨げています。本来であれば、教育予算やインフラ投資など、他の用途に使えたはずの予算が「債務償還費」に消えているような印象を与えることで、歳出拡大の議論が進まなくなっています。
財務省内部の誤解と硬直性:過去にこのルールが誤りであったことを認められないため、財務省の中でもほとんどの職員が誤解しており、「嘘に嘘を塗り固め」て間違った方向に進んでしまうという問題があります。これは国民にとって大きな不幸だと述べられています。
国債市場の誤った解釈:消費税減税などの議論の際に「国債市場が混乱する」という反論が出ることがありますが、これは国債の残高だけを見て判断する誤った見方です。金利の高騰も財政不安によるものと解釈されがちですが、実際には日本経済の「正常化」と将来の成長期待を織り込んでいる可能性も指摘されています。
財政運営の見直し提案
現在の財政認識と経済運営を改善するためには、以下の見直しが提案されています。
国債60年償還ルールの撤廃:アメリカのようにこのルールを撤廃し、債務償還費をなくすことで「お化け」を消し、国債費の割合が現実的な水準になり、財政に対する考え方がより柔軟になります。
義務的支出と裁量的支出の分離:日本の歳出は義務的支出と裁量的支出が明確に分かれていないため、あらゆる歳出追加に「財源」が必要だという議論につながりがちです。義務的支出にのみ財源を紐付け、裁量的支出は経済状況に応じて増減させるという「普通の財政の考え方」に変えるべきとされています。
「純利払い費」の計上:政府も金融資産から金利収入を得ているため、利払い費を支払った額(グロス)だけでなく、収入を差し引いた「純利払い費」(ネット)を計上することで、真の金利負担を把握することができます。これにより、「利払い費が膨らんで大変だ」という誤った認識を避けることができます。
国全体としての債務構造の把握:政府の債務残高(対GDP比236%)だけを見て「大変だ」と判断するのではなく、政府の金融資産や、企業・家計を含めた国全体の純負債額を総合的に分析することで、金利が高騰するリスクや経済全体の健全性を正しく判断する必要があります。
これらの提案は、「お化け」を消し去り、瞬間に見えるものだけを信じて物事を判断しないことで、財政政策が国民を救い、長期的な経済成長をもたらすための余地を広げることにつながると考えられています。
国債の「お化け」と表現される誤解が、日本の財政政策の意思決定にどう作用しているのか?
日本の国債に対する「お化け」と表現される誤解は、主に「国債60年償還ルール」とそれに伴う「債務償還費」が国家予算に計上されることによって生じています。この誤解は、日本の財政政策の意思決定に対し、以下のような形で作用しています。
財政状況への誤った認識と政策の硬直化:
国家予算の歳出において「国債費」が約24%を占めるという説明に、実際には返済されていない「債務償還費」が含まれることで、歳出構造が硬直化しているという誤った印象を与えています。これにより、「財政は大変なことになっている」という認識が生じ、政策の選択肢が狭められます。
この「お化け」が存在することで、政府の財政負担が大きいと錯覚し、**「将来世代へのつけ回しだから、今の国民を助けるお金はない」**という結論につながりやすくなっています。
「ワニの口」グラフのように、債務償還費を含む歳出で描かれることで、日本の財政が破綻に向かっているという危機感を過度に煽り、国民を財政健全化の方向へ誘導するために「悪用されてきました」。
積極財政の阻害と緊縮財政への誘導:
国債が「将来の税収で返済すべきもの」であるという誤った前提が、国民の間に「借金は返さなければならない」という思い込みを生じさせています。この思い込みが、国民を助けるための積極財政の実施を妨げています。
政府が支出を増やすことによって民間所得が増えるという、国債発行の本来の側面が理解されにくく、インフレ高騰リスクのみが強調され、結果として財政政策の発動が限定されることにつながっています。
「財源」議論の過剰な要求:
日本の場合、予算における「義務的支出」(社会保障など)と「裁量的支出」(教育、インフラ投資など)が明確に分けられていないため、あらゆる歳出追加や減税に対して「財源が必要だ」という議論につながりやすくなっています。これは、債務償還費という「お化け」によって予算が圧迫されているという認識があるため、他の分野への予算配分が困難であるかのような印象を与えるためです。
金利上昇に対する誤った解釈:
長期金利が上昇すると、すぐに「財政不安」と結びつけて解釈され、減税などの政策が国債市場を混乱させるという反論が出がちです。しかし、実際には金利の上昇は日本経済の「正常化」と将来の成長期待(名目GDP成長率3%程度)を織り込んでいると解釈することもできます。しかし、この「お化け」の存在により、財政不安という誤ったレンズを通して金利の動きが捉えられ、政策の足かせとなることがあります。
政府の過去の誤りの不承認:
財務省自身も「国債60年償還ルール」が文字通りの償還を目指すものではなかったことを認めたにもかかわらず、過去の誤りを認めない(無謬性)官僚の世界の姿勢が、「嘘に嘘を塗り固めて」間違った方向への政策を継続させてしまうという国民にとって不幸な結果を招いています。
これらの作用により、「お化け」のような存在が日本の財政政策の意思決定を縛り付け、国民の利益となるような政策の選択肢を狭めている可能性が指摘されています。
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