【解明】日本の年金制度は破綻しない...?老後不安を煽るメディアの誤解に切り込みます。
- 渡邉 定好
- 8月29日
- 読了時間: 6分
更新日:9月1日
ニュースの争点のYouTube動画では、日本の公的年金制度が主に賦課方式(Pay-as-you-go)を採用していることを解説しています。これは、現在の労働世代からの保険料や税収で、その時点の年金受給者への支出を賄う仕組みです。多くの主要先進国でもこの方式が主流であり、日本の年金財政は他の先進国と比較して健全であると述べられています。また、日本の年金制度には不要な余剰資金が相当程度積み上がっているという、一般的な誤解を指摘し、経済成長が年金財政の健全性を左右する重要な要素であると強調しています。社会保障費の増加は高齢化に比例的であり、加速的には増加していないため、現役世代に過度な負担を強いる必要はないと結論付けています。
日本の年金財政や社会保障に関する一般的な誤解は何か、そしてその本質的な要因はどこにあるか?
日本の年金財政や社会保障に関する議論には、いくつかの一般的な誤解が見られます。その本質的な要因は、制度の仕組みや経済状況に対する特定の前提、そして統計データの解釈の仕方にあると考えられます。
日本の年金財政や社会保障に関する一般的な誤解
「年金制度は破綻寸前」「火の車」であるという誤解
メディアなどでよく報じられる「年金財政が危ない」という主張は、実質GDP成長率が100年間0%で推移するというシナリオに基づいていることが多いと指摘されています。
このシナリオでは年金基金の倍率(年間支出に対する基金の倍数)は1に収束するとされますが、実質GDP成長率が1%で推移すれば、厚生年金基金は枯渇せず、むしろ発散(増え続ける)すると試算されています。
日本の公的年金制度は、国民年金が毎年の支出の約4倍、厚生年金が約5倍もの巨大な基金を有しており、これは他国の年金制度よりも「相当程度年金財政が健全」であることを示しています。この基金は、賦課方式であるにもかかわらず「本来は必要のない余剰資金」と解釈されています。
若者世代の負担が加速度的に増え、高齢者を支えきれないという誤解
「高齢化によって社会保障費が等比級数的に(加速度的に)伸びていく」という懸念がよく聞かれますが、実際のデータ分析では、社会保障関係費のGDP比の増加は、高齢化の要素(特に後期高齢者の増加)にほぼ比例的に説明でき、人口動態に沿った動きしかしていないことが示されています。
もし人口構成が安定していれば、社会保障関係費のGDP比はむしろ減少するという試算もあり、加速度的な増加を恐れて現役世代に過度な負担を強いる必要はないと指摘されています。
この基金が余剰資金であるため、将来的に取り崩すことも可能であり、実際、厚生年金基金の一部を国民年金に流用する動きも見られます。また、法律を変えれば、医療や介護などの他の社会保障分野にも利用できる可能性も指摘されています。
年金基金の減少が制度の危機を示すという誤解
日本の年金制度は「賦課方式(Pay-as-you-go)」を採用しており、年金受給者への支出をその時点の現役世代からの社会保険料や税収で賄う仕組みです。賦課方式では、本来、年間の支払額と同程度の基金があれば良いとされています。
しかし、多くの人はこの巨大な基金を見て、日本の年金制度を「積立方式」と誤解しており、基金が少し減るだけで年金財政が危ないと考えてしまうことがあります。実際には、この基金は過去の人口ボーナス期や高度経済成長期に収入が支出を大きく上回った結果として積み上がった「余剰資金」であり、減っていくこと自体は賦課方式の性質上、問題ではありません。
政府の巨額な金融負債(借金)が財政破綻寸前であることを意味するという誤解
政府が抱える金融負債(約1400兆円)だけを見て「財政が火の車」と誤解されることがありますが、政府は年金基金を含む巨額の金融資産(約868兆円)も所有しています。
結果として、政府の**純債務はGDP比で約116%**であり、これはアメリカと大差ない水準です。
さらに、企業部門の純債務がほぼ存在しない(企業が貯蓄に回っている)日本の状況と、政府の純債務を合計すると、**日米欧の中で日本のネットの債務残高が最も小さい(GDP比でマイナス101%)**ことが分かります。これは、日本の金利が上がりにくい理由の一つであり、政府には支出を拡大する余地が十分にあることを示唆しています。
誤解の本質的な要因
これらの誤解が生じる本質的な要因は以下の通りです。
制度の仕組みの複雑さと誤った認識
日本の年金制度が**「賦課方式」**であるにもかかわらず、巨額の基金があるため「積立方式」と誤解されがちである点が最も大きな要因です。これにより、基金の増減が制度の健全性を示す指標であるかのように捉えられてしまいます。
年金制度は30年~40年といった長期にわたるため、経済や人口動態といった巨大な不確実性のリスクを、家計ではなく、圧倒的にリスク許容度が高い国が負うべきであるという賦課方式の国際的な考え方が十分に理解されていないことも背景にあります。
経済成長率の前提に関する情報の偏り
政府の財政検証で用いられるシナリオのうち、最も悲観的な「ゼロ成長」の前提がメディアで強調されがちであり、経済成長が1%あれば年金財政が健全に推移するという試算が十分に報じられていないためです。年金財政の持続可能性は社会保険料の引き上げよりも実質GDP成長率に大きく左右されるという専門家の見解が広く共有されていません。
社会保障費増加の性質に関する思い込み
社会保障費が高齢化によって「加速度的に伸びる」という思い込みが強く、実際にデータで検証されることが少ないと指摘されています。高齢化による増加は比例的であるという事実が理解されれば、現役世代への過度な負担増の議論も変わる可能性があります。
政府の財政状況に関する一方的な情報提供
政府の金融負債(借金)のみを強調し、同時に保有している金融資産や、企業部門の貯蓄状況を考慮した政府・企業合計でのネットの債務残高という、より包括的な指標が示されないため、財政状況が悪く見えるという問題があります。
また、日本の国家予算において、社会保障のような「義務的支出」と、公務員給与や防衛費のような「裁量的歳出」が明確に区別されて示されていないことも、財源確保に関する誤解を生む原因となっています。
これらの誤解は、国民や政策担当者が年金財政や社会保障の議論を行う上で、制度の本質や経済状況を正しく理解することを妨げていると指摘されています。
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