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なぜヒトだけが幸せになれないのか

  • 執筆者の写真: 渡邉 定好
    渡邉 定好
  • 6月12日
  • 読了時間: 4分

東京大学の小林武彦教授は、人類が「幸せになれない」根本原因を、遺伝子に刻まれた生物学的本質と現代社会の不適合にあると論じています。人類は700万年の進化の大部分を協力と共有に基づいたコミュニティで過ごし、その本能は今も残っています。しかし、約1万年前の農耕開始と弥生格差革命(YKK)により所有や格差の概念が生まれ、社会構造が激変しました。この結果、現代社会では**「比べる能力」や「自慢する感情」といった元来集団維持に必要だった能力が、SNSにおける疑似的な承認や快楽を通じて、むしろ孤独や不満を生む原因となっています。教授は、AIなどのテクノロジーはあくまで道具であり、その使い方を誤ると人類は考える力を失い、滅亡に向かう可能性さえあると警鐘を鳴らし、小さなコミュニティの再構築と本質的な人の営みへの回帰**が、今後の人類の幸せには不可欠であると提言しています。


なぜ人類は、過去の進化と現代社会とのギャップから幸福を感じにくくなったのか?

人類が過去の進化と現代社会とのギャップから幸福を感じにくくなった主な理由は、私たちの生物学的な性質や遺伝子が、現代の生活様式や社会構造に適合していないためです。

小林武彦教授は、生物学的な幸せとは「生きていること」、つまり「死から距離が保てていること」であると述べています。人間は700万年前にチンパンジーと共通の祖先から分岐して以来、その約699万年の間、小さな集団で助け合い、全てをさらけ出し、協力して生きてきました。この期間に、協力、正義、公平、利他的な精神といった性質が、生き残るために選択され、遺伝子に刻まれてきました。しかし、約1万年前、特に日本の縄文時代から弥生時代にかけて起こった「弥生格差革命(YKK)」と呼ばれる生活様式の劇的な変化が、このギャップの始まりとなりました。

このギャップが幸福感に影響を与える具体的な要因は以下の通りです。

  • 所有と格差の出現:

    • 弥生時代に農耕が始まり定住化が進んだことで、「財産」を所有し、それを囲い込むことが可能になりました。これにより、それまでの「全てを分け合う」生活から、「格差」が生まれる社会へと変化しました。

    • 私たちの遺伝子は、この約1万年の間に劇的に変化したわけではなく、何万年もかけてゆっくりと進化するため、現代の格差社会に遺伝子が適応できていません。

  • 「自慢」の機能不全:

    • 「自慢したい」という気持ちは遺伝子に刻まれた人の本性であり、過去には大きな獲物を取った際に皆に見せびらかし、分け合うことで集団の喜びとなり、承認を得ていました。これは「喜びを分かち合うための感情」でした。

    • しかし、現代社会では自慢してもお裾分けがないため、「なぜあなたのサクセスストーリーを聞かなければならないのか」という不快感につながり、自慢する側もされる側も幸福感を得にくい状況になっています。

  • 「承認」の希薄化と「比較」の苦痛:

    • 人は「承認」を求める社会的な生き物ですが、SNSなどでの「いいね」は「疑似的な承認」であり、一時的な快楽はあっても、真の信頼関係や生物学的な満たされ方にはつながりません。お腹がいっぱいにならないのと同様に、本当の満たされ感は得られないのです。

    • 人間は「より良いもの(ベター)」を好み、常に「比べる」能力が非常に高いです。かつてこの能力は、集団の中で自身の貢献度を測り、コミュニティから排除されないために最小限の努力をする上で重要でした。

    • しかし、現代では比較対象が多すぎ、特にSNSでは無限に上位が存在するため、いくら努力しても報われないと感じたり、常に自分と比較して劣等感を抱いたりしやすくなり、幸福感が低下します。

  • テクノロジーとの不適合:

    • 人間は「何かを作り出す」「改良する」という本性を持っており、テクノロジーの発展によって地球の覇者となりました。しかし、テクノロジーの「使い方」は遺伝子に刻まれていないため、誤った使い方をすると人間にとって脅威となる可能性があります。

    • 例えば、AIに頼りすぎると「考える習慣や能力」が低下し、これは人間にとって致命的であると小林教授は警鐘を鳴らしています。また、自動車などのテクノロジーによって、かつて50km歩けた人間が今では5kmしか歩けなくなるなど、身体能力が低下しています。

    • サイバー空間への移動は快楽に満ちている一方で、現実世界での生物学的な幸せからの距離感を縮める危険性もはらんでいます。

このように、約700万年かけて形成された人類の遺伝子と、過去1万年で劇的に変化した現代社会の構造(特に所有、格差、大規模な社会、テクノロジーの発展)との間に生じた「ギャップ」が、人類が幸福を感じにくくなった大きな要因であると考えられます。



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